残業代請求
残業代請求の解説:目次
残業代未払いの問題点
残業代についての法律上の規制
具体的な残業代計算例
残業代が支払われない場合の対応策
会社が任意の残業代支払をしない場合
会社が残業代支払を拒む理由とは
残業代についておかしいと感じたら
1 残業代未払いの問題点
リストラにより増加しつつある労働時間
これまでの不況により各企業は人件費を抑制するため多くのリストラを行いましたが、これにより逆に企業においては人手不足が生じ、少ない人員でこれまでの業務量を確保するため一人の労働者に必要とされる業務量は増加する傾向がでています。
そのことから企業によっては従業員一人ではこなせないほどの業務が発生し、本来の勤務時間外に業務を行わせざるを得ない状況が発生しています。
長時間労働による健康被害・過労死問題
これに対し企業は、人件費を抑制するため本来支払うべき残業代を支払わず、いわゆるサービス残業を従業員に強いているケースがあります。
このような企業の残業代に対する認識から、働き過ぎによる過労死や各種労働災害が多く発生しています。残業代についての正しい認識をもち、働き過ぎを防止する必要があるといえます。
2 残業代についての法律上の規制
労働基準法によれば、原則として週40時間、1日8時間の労働を超える労働に対しては残業代として割増賃金を支払うことが必要とされています。また、午後10時から午前5時までの労働(深夜労働)、休日の労働に対しても残業代として割増賃金を支払うことが必要とされています。
各時間外労働の割増率については下表のとおりです。
| 労働の種類 | 賃金割増率 |
|---|---|
| 時間外労働 | 25%割り増し |
| 休日労働 | 35%割り増し |
| 深夜労働 | 25%割り増し |
| 時間外+深夜労働 | 50%割り増し |
| 休日+深夜労働 | 60%割り増し |
各割り増し賃金については大まかに言うとその労働者の時間給に各割増率分を乗じ、それを実際の時間外労働時間で乗ずることにより算出します。例えば時給1000円の労働者が休日労働をすれば、1350円にその休日労働した時間分を掛けた額が残業代として支払われるべき金額となります。
3 具体的な残業代計算例
以下では、仮想のケースについて具体的に残業の計算をしてみます。
(なお、以下の説明は残業代計算の流れを大まかにイメージしていただくためのものですので、簡略化により多少正確性を欠く部分もあります。)
1) 事例
・午前9時から休憩1時間を挟み午後6時までが就業時間
・月額基本給20万円+通勤手当2万円
以上の条件で働く従業員A氏が、ある平日において午前9時から午後11時まで働いたとします。
2) 残業代計算の概要
この場合「 時間外労働時間 (就業時間外の労働時間)」 については、午後6時から午後11時までの間の5時間になります。
また「深夜労働時間 (午後10時から午前5時までの労働)」 については午後10時から午後11時までの1時間となります。
割増率については、先の割増率一覧表を参照すればすぐにわかります。
まず、時間外労働の割増率は25%とされています。
そして、深夜労働の割増率も25%とされています。
ただし、 ここで注意が必要となるのが 時間外労働が深夜に及んだ場合 です。
この場合には単純に割増率が追加され、割増率は 50% となります。
結論としてこの場合、
ア 労働者の時間給×1.25×4 の計算により算出された額と
イ 労働者の時間給×1.50×1 の計算で算出された額
の合計額がその日の残業代となります。
3) 時間給の算出方法
では、時間給についてはどのように計算するのでしょうか?
月給の場合、時間給については
「月額給与÷その月の所定労働時間」 で計算します。
今回の場合、一日の所定労働時間は8時間であり、土日が休日とした場合、労働は22日になります
(月によって労働日数は変わりますが、ここでは22日とします)。
そうすると
8時間×22=176時間
ですから、 月の所定労働時間は176時間となります
(月により労働時間が変化する場合多少計算が複雑になりますが、ここでは割愛します)。
では月額給与についてはどのように計算するのでしょうか?
法律上、割増賃金算定の基礎となる月額給与には、 「家族手当」「通勤手当」「住宅手当」 等、労働の内容や量に関係しない賃金については含まれないとされています。
したがって、今回の場合、通勤手当2万円は算定の基礎から除外します。
よって月額20万円が算定の基礎となります。
以上から、今回のA氏の時間給については
20万円÷176時間=約1136円 となります。
4) 残業代の具体的計算例
この時間給を25%増しにすると: 約1136×1.25=約1420円
また、50%増しにすると: 約1136×1.50= 約1700円 になります。
そうすると、
時間外労働が4時間で :1420円×4=5680円
時間外労働+深夜労働が1時間で: 1700円×1=1700円
合計で:5680円+1700円= 7380円 ということになります。
つまり、この日の労働により時間外賃金が7380円も発生するということになります。
5) 休日労働の場合はどうなる?
ついでに、この従業員A氏が休日である日曜日に午前9時から午後6時まで仕事をした場合の割増賃金を計算してみましょう
休日労働の場合の割増率は35%ですから、
1136円×1.35×8時間=約1万2268円 の残業代が発生します。
さらに、休日労働が深夜に及んだ場合には、その割増率は60%となります。
したがってこの従業員が休日の午後10時から午前5時まで仕事をした場合
1136円×1.60×7時間=1万2723円 の割増賃金が発生します。
注:休日は労働日ではないため、所定労働時間の概念がありませんので、時間外労働の概念も存在しません。したがって、午前5時から9時、午後5時から10時の労働については単純に休日労働として35%の割増となります。
6) まとめ
以上の内容からわかるとおり、慢性的に日々残業を行っている場合には一般的に相当額の割増賃金が発生していることになります。
ただし、実際に時間外労働を行っていたとしても、訴訟等においてはそれを証拠に基づいて立証できなければ主張が認められません。
したがって、日々自身の労働時間を記録に残すことが重要と言えます。このページの先頭へ
4 残業代が支払われない場合の対応策
1) 残業時間・休日労働時間の把握
まずは、自分にどのくらい未払い残業代が発生しているのかを確認する必要があります。
そのためには自分がいつ、何時間仕事をしたのか明らかにしなければなりません。
これを把握するためにもっとも有効な手段が、普段勤務時に使用しているタイムカードになります。
タイムカードを使用していない会社においては、例えばメールの発信時間やファックスの発送時間、シフト表、業務日誌、業務日報等で時間を確定する必要があります。
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2) 請求可能な残業代の金額の計算
次に、上記の労働期間記録に基づいて、実際の未払い残業代の額を算出する必要があります。
算出方法の原則については上記の計算とおりですが、計算の基礎となる時間給の算出についても法律の規定があり、労働基準法上「家族手当」「子女教育手当」「住宅手当」など労働の量や内容と無関係な手当等については計算の基礎とされません。
例えば、賃金として20万円が支払われている場合でも5万円が家族手当として支払われている場合には15万円を計算の基礎として時間あたりの賃金を計算することとなります。
ただし、名目上「家族手当」のような形で支給されていても、実質的に賃金として支払われているような場合や会社が残業代の額を抑制するために名目上「家族手当」として支払っている場合などは、残業代の基礎として計算されることになります。
この点については法律的な検討が必要であり専門家の知識が必要となります。
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3) 残業代の請求
未払い残業代の総額が判明したら、その計算根拠と共に会社に残業代を支払うよう要求します。
これは請求した事実を証拠として後日残すために内容証明郵便等の形で行います。
何も根拠を示すことなく大雑把な計算により請求したとしても会社がその内容を検証することができないため、それなりの根拠を示すことが必要でしょう。
ただし、法律上労働時間の算定は本来会社が行うべきこととされているので、労働時間の正確な把握が出来ないからといって残業代の請求をあきらめるべきではありません。
以上により会社が任意に残業代の支払いすれば問題は解決しますが、会社もさまざまな理由をつけて残業代の支払いを拒むことが多くあります。
そのような場合は、裁判所等の第三者機関を利用して残業代を支払わせるよう働きかける必要があります。
5 会社が任意の残業代支払をしない場合はどうするか
1) 労働基準監督署への申告
労働基準監督署へ時間外労働に対する未払い賃金が発生している事実を申告し、会社に対して残業代の支払いをするように指導してもらうと言う方法があります。
しかしながら、労働基準監督官の意向により必ずしも必要な指導をしてくれるとは限らないことや、判決のような強制力をもって支払を命じてくれることはないことから、必ずしも問題解決につながらないこともあり得ます。
2) 訴訟の提起や労働審判の申立
会社が任意に支払をしない場合には、裁判所に対して訴訟を提起し、残業代を支払うよう判決をもらう必要があります。
裁判所への提訴については、本人により行うことも可能ですが、法的な判断や書面を作成する必要があるため、弁護士を利用し行った方が効果的と言えます。
裁判所を解した場合には、紛争が比較的長期化する、弁護士費用がかかるなどのデメリットがありますが、近時「労働審判」という早期の労働問題解決手続が創設されこれを利用して早期の紛争解決を目指すのも一つの効果的な方法です。
6 会社が残業代支払を拒む理由とは
残業代の支払を請求した場合、会社は以下のような理由によりその支払を拒むことがあります。しかし、会社の主張には法律的にみると理由のないものであることも多く、その拒絶理由が正しいものなのか慎重に検討する必要があります。
1) 管理監督者に該当すること
労働基準法上、管理監督者に該当する者については時間外労働に関する規定は適用されないとされています。
管理監督者とは、わかりやすくいうと管理職にあるような企業内において高い職位にある人というイメージです。一般的に部長職以上の階級にある労働者などがこれにあたるといわれている傾向がありますが、法律上の管理監督者に該当するかどうかは、単純な職位の名称で決定されるものではなく、時間外労働の規定を適用する必要のない経営者と同じような立場にいる労働者かどうかで判断されます。
具体的には、役職手当のような特別手当が支給されているか、職務の内容がその部署を統括するようなものか、出退勤の管理が厳密になされているか、部下の人事考課権限を有しているなど人事権について一定の裁量権を有しているか等が、検討されます。
したがって、例えば部長と呼ばれている労働者であっても手当や給与等で他の労働者と変わりがなく、職務内容についても上長からの指示をこなすだけであり、出退勤についても他の従業員同様厳密に関与されており、人事考課について裁量権もないような場合には、残業代は発生することとなります。
2) 賃金に残業代が含まれていること
例えば年俸制で給与支給を行っている会社などに多い理由として、毎月の給与に残業代分が含まれているから別途残業代は発生しないというものがあります。
給与の一部を固定の残業代として支払うこと自体は、最低賃金法に抵触しない限り違法ではありません。
しかしながら、固定残業代の総額が割り増し残業代の総額を超える場合には、その超えた分を残業代として支払う必要があります。
例えば、月3万円の残業代を固定残業代として支払っていた場合であっても、その労働者の一ヶ月における残業代の総額が5万円であれば超過分の2万円については会社が追加して支払う必要があります。
また、漠然と毎月の賃金に残業代が支払われていると会社が主張しても、給与明細等によりその固定残業代分が明示されていない場合には、結果として残業代は支払っていないと判断される可能性があり、その場合には実際の残業代総額を支払ってもらうことができます。
3) みなし労働時間制
会社によっては、各労働者に対しみなし労働時間制が適用されることを理由として残業代の支払いを拒絶することがあります。
みなし労働時間制とは、わかりやすく説明するとどれだけ労働を行ったとしても一律の時間(例えば8時間)労働したものとみなしてしまう制度です。
法律上認められているみなし労働時間制としては例えば裁量労働制や事業場外労働が存在します。
このような会社の主張については一見もっともらしく聞こえますが、みなし労働時間制については法律上適用するための条件が多く存在し、法律上はみなし労働時間制を適用することがきないのに企業の勝手な判断によりみなし労働時間制が適用されその結果残業代の支払いがうけられないという事態が多く発生しています。
法律上みなし労働時間制の適用ができないのにもかかわらずこれを理由に残業代の支払いを行わないことは違法であり、その場合労働者は残業代の支払いを受けることができます。
本当にみなし労働時間制の適用が可能かどうかについては法律的な判断が必要であり専門家の知識が必要となります。
7 残業代についておかしいと感じたら
残業代の支払いに関し会社の対応が間違っていると感じた場合には、まず一番大切な点は自分がいつ、何時間くらい働いていたのかを確定することです。タイムカードや業務日報などの客観的な証拠を収集し、一日単位で可能な限り自分が働いていた時間を特定します。
上述したとおり、労働時間を把握するのは企業が行うべきことですが、実際の労働時間を特定出来なければ裁判所や労働基準監督署を動かすことは困難です。手帳にメモした終業時間が証拠として認められた例もありますので、日々の労働時間をしっかりと把握するということが大切です。
労働時間について最低限の法的知識を持ち、サービス残業等による弊害を生じさせないよう気をつけましょう。




